盛岡地方裁判所 平成8年(ワ)392号 判決 1998年5月15日
岩手県稗貫郡<以下省略>
原告
X
右訴訟代理人弁護士
吉岡和弘
東京都中央区<以下省略>
被告
フジフューチャーズ株式会社
右代表者代表取締役
A
盛岡市<以下省略>
被告
Y1
右被告ら訴訟代理人弁護士
肥沼太郎
同
三﨑恒夫
主文
一 被告らは、原告に対し、各自金一三二〇万円及びこれに対する平成八年七月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告フジフューチャーズ株式会社は、原告に対し、別紙株券目録記載の株券を引き渡せ。
三 原告と被告フジフューチャーズ株式会社との間の商品先物取引委託仲介契約に基づく原告の同被告に対する債務は、金五四二万六一七六円を超えて存在しないことを確認する。
四 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
五 訴訟費用は、これを三分し、その一を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。
六 この判決は、第一項及び第二項に限り、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告らは、原告に対し、各自金二一三二万円及びこれに対する平成八年七月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 被告フジフューチャーズ株式会社は、原告に対し、別紙株券目録記載の各株券を引き渡せ。
3 原告と被告フジフューチャーズ株式会社との間の商品先物取引委託仲介契約に基づく原告の同被告に対する金八七六万七一五八円の債務の存在しないことを確認する。
4 訴訟費用は被告らの負担とする。
5 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、建設業を営み、訴外B(以下「訴外B」という。)は原告の妻である。
2 被告フジフューチャーズ株式会社(以下「被告会社」という。)は、東京穀物商品、東京工業品等の各取引所に加入する国内公設商品先物取引員として、同各取引所上場商品につき商品先物取引委託仲介業務を行っている会社であり、被告Y1(以下「被告Y1」という。)は、被告会社盛岡支店に勤務する外務員である。
3(一) 原告は、平成八年四月一二日から同年七月九日まで、被告会社と商品先物取引につき取引関係にあった。
(二) 原告は、被告会社に対し、次のとおり委託証拠金を預けた。
① 平成八年四月一二日 三〇〇万円
② 同月一七日 一〇〇万円
③ 同年五月一日 二〇〇万円
④ 同月一七日 四〇〇万円
⑤ 同月二八日 四〇〇万円
⑥ 同月三一日 二〇〇万円
合計 一六〇〇万円
(三) 原告は、被告会社に対し、委託証拠金代用有価証券として、別紙株券目録記載の株券を預けた。
4(一) 被告らは、商品先物取引について経験や知識がなく、商品相場の価格変動を予測ないし判断し、相場暴落の際に追加証拠金を直ちに準備しうる地位や能力に欠ける原告に対し、商品先物取引についての仕組みや危険性等につき十分な説明をすべき義務があるにもかかわらず、これを怠り、被告Y1において、平成八年四月一一日には、「トウモロコシが今一番有利で安全な利殖です、是非儲けて下さい。」、「最近は金利事情が悪くて銀行などに預けても何もならない、トウモロコシをやれば一週間や一〇日で倍とか三倍にもなります。」、「こんなに安全で確実な商品はトウモロコシ以外ありません。」などと、同一五日には、「順調に上がっていますよ、まだ上がりますよ。」などと、同一六日には、「売るのはいつでも売れる、まだまだ値上がりします。」、「こんな時期に売るのはもったいない、まだまだ値上がりするんですから持っていた方が絶対得です。」などと、同年七月五日には、「まだ一一〇〇万円入れ続ければ取り戻せるんですよ、ともかく一一〇〇万円さえ入金できれば元金は全部返せる、これ以上の追加の金は絶対いらないから、売のマイナス分は一週間でゼロになる。」などとそれぞれ申し向け、もって、商品先物取引が安全確実で利益が必ず生まれると欺罔した。
(二) さらに、被告Y1において、平成八年四月一一日には、訴外Bの「万が一値下がりして損が出た場合はどうなるの。」との質問に対し、「今のトウモロコシに限って絶対にそんな心配はありません、私が腹を切ってもいいです。」と申し向け、追証拠金制度の説明を秘匿し、同年五月一〇日には、原告に「今回が最後です、これ以上は絶対にお金を準備する必要はない、これが最後ですから。」などと申し向けるなどして、先物取引には追証拠金制度が存在しないかの如き説明をして原告を誤信させた。
(三) 被告らは、これまで商品先物取引についての知識や経験がなく、両建なるものがいかなる意味と効果を生じさせる手法であるかも知らない原告に対し、両建なるものの内容や効果について十分な説明をすべき義務があるにもかかわらず、これを怠り、被告Y1において、平成八年五月一日、「まだ安くなるので両建をした方がよい、今、買が四〇枚あるので買と同数の売をいれることです、そうすれば値が少しばかり下がっても心配がありません、そして、値が下げ止まったときに売の方を手仕舞いし、今度は値が上がっていって買値以上になったら手仕舞いすると両方に利益が出る、そうすれば今までの損失の部分がなくなる。」と申し向け、その旨原告を誤信させた。
(四) 被告らは、委託者から受託を受け、取引所に注文を発する業務に従事するものであるから、顧客に対し、委託証拠金を立て替えて取引を継続させる行為に出てはならない義務があるにもかかわらず、これを怠り、被告Y1において、平成八年六月一二日には、「私が雫石町のお得意さんから三〇〇万円を借りて立替払をしておいた、取り敢えずこれで緊急事態を乗り切ったから安心して欲しい。」とした上、さらに、「雫石町の人から借りた金だ、早く返してくれ、何時まで待たすのか。」など再三にわたって返済を強要し、同年七月一日には、「取引をやめるにしても雫石町の人から借りた三〇〇万円とあと八〇〇万円が必要となる、この八〇〇万円は私の親から借り入れたものだ、Xさんのためにも合計一一〇〇万円を立て替えてある、絶対いれてもらわなければ困ります、取引上も一一〇〇万円入れてくれなければやめることはできません。」などと原告に申し向けて、委託証拠金の立替えによる欺罔により原告から金員を騙取しようとした。
(五) 被告らは、顧客に対して虚偽の情報を流したり、仕切るべき時に仕切りを拒否したり、仕切りを引き延ばしたりしてはならない義務を負うのに、これを怠り、平成八年四月一五日には、原告から、「最初の約束どおり一〇〇〇円以上値上がりしたからここで売ってもらいたい。」との仕切り要求があったのにもかかわらず、被告Y1において、「売るのはいつでも売れる、まだまだ値上がりします、こんな時期に売るのはもったいない、まだまだ値上がりするんですから持ってたほうが絶対得です。」などと申し向け、同年五月一日ころには、原告が「もうやめてくれ。」と一切の建玉の手仕舞いをするよう求めたのに対し、「なんで今止めるのか、両建さえすればともかく損失は防げるのに、それを止めるには追証拠金を出さなければ止められない。」などと申し向け、同月一〇日には、原告が「一切終わりにしてほしい。」と抗議すると、「今回が最後です、これ以上は絶対お金を準備する必要はない。」などと申し向け、同年六月二日には、原告から「もう金はできない、止めたい、どうすれば止めさせてくれるのか。」と懇願されると、「しかし、今、それを入れないと大変な損失になる、まだ絶対取り戻せる自信がある、この程度のことはなんの心配もないことだ、とにかく三〇〇万円を入れることが先決だ。」と申し向け、同年七月一日には、「Xさんのために合計一一〇〇万円を立て替えてある、一一〇〇万円を入れてくれなければ取引をやめることはできません。」などと申し向け、同月八日には、原告からの「全部手仕舞いして下さい。」との申入れに対し、被告会社盛岡支店支店長の訴外C(以下「訴外C」という。)において、「Xさんが追証を入れてくれないと手仕舞いは出来ないんですよ。」などと申し向け、それぞれ仕切り拒否を続けた。
5 被告らの右4(一)ないし(五)の行為は、断定的利益判断の提供の禁止(商品取引所法九四条一号)、新規委託者につき三ヶ月間の習熟期間を設け右期間中の取引枚数を二〇枚に制限するべき保護育成措置(受託業務管理規則六条)、不当な両建の禁止、証拠金の不納付の禁止(商品取引所法九七条一項、受託契約準側九条二項)、手仕舞の拒否などの違法な行為であり、かつ、その違法の程度が高く公序良俗にも反する。
6(一) 前記3(二)の委託証拠金一六〇〇万円は、被告らの違法な行為によって預けさせられたものであり、被告らの不法行為に基づいて原告に発生した損害である。
(二) 別紙株券目録記載の株券は、公序良俗に反する無効な商品先物取引関係に基づいて原告が被告会社に預けたものであるから、被告会社はこれを返還する義務がある。
(三) 被告らは、前記違法行為を原告に対してなすとともに、被告Y1において、平成八年七月五日、原告方で、訴外Bに対し、「嘘をつくのか、奥さんだけがなぜそんなに正しいのか、金で自殺したものなどいない、死ぬなら金を出してから死んで下さい、私も奥さんの自殺するのに付き合って見届けてあげますから。」などと、テーブルを叩くなどして、二時間以上にわたって訴外Bを威迫するなどし、もって原告及び訴外Bに精神的苦痛を与えたものであるから、右違法行為による苦痛を慰謝するには少なくとも一〇〇万円を下らない賠償が必要である。
(四) 原告は、本件に関し、原告代理人に対して着手金一四四万円、報酬二八八万円を支払うことを約した。
7 よって、原告は、被告らに対し、不法行為に基づく損害金合計二一三二万円及びこれに対する原告が被告会社に取引関係の終了を告知した日である平成八年七月八日から民法所定の年五分の割合による遅延損害金、被告会社に対し、商品先物取引委託仲介契約の無効に基づく預株券の引渡し及び同契約に基づく債務の不存在の確認を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1ないし同3は認め、同4ないし同7は争う。
2(一) 原告は、被告Y1及び被告会社の従業員である訴外D(以下「被告Y1ら」という。)から、平成七年一一月下旬ころにトウモロコシの先物取引について説明と勧誘を受け、翌平成八年四月ころまで都合五回ほど同相場の状況等の説明を受け、また、受託契約準則、ガイドブックなども手交されているのであるから、原告は、先物取引の危険性やその仕組みを了知していた。
(二) 被告Y1らは、その取引期間中、原告に対し、面談し又は電話で緊密な連絡を取り、さらにファックスで相場情報を提供し、その都度注文内容及び取引に必要な委託証拠金額等を原告との間で確認して受注し、成立した売買について被告Y1から電話で報告するとともに、報告書、残高照合書等を送付して決済建玉の内訳、委託証拠金必要額等につき照合(指示)を求めながら取引を継続してきた。
(三) 本件の取引は、全て原告の意思と判断に基づいて行われており、取引終了時に原告が被告会社に支払うべき帳尻差損金(立替金)債務は二七三一万四一五八円となっている。
第三証拠関係
本件記録中の証拠関係目録に記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 請求原因1ないし同3の事実は当事者間に争いがない。
二1 証拠(甲一、二、三の1、七ないし九、乙一ないし九、一〇の1、2、一一の1ないし18、一二の1ないし5、一三、一八ないし二〇、二二の1、2、証人B、同C、原告本人、被告Y1。なお、右各証言及び各本人尋問の結果中、いずれも後記認定に反する部分は、その供述が相反しているものであり、これを裏付けるに足りる証拠がないか、不自然な内容を含むものであるから、これらの供述部分は採用しない。)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(一) 原告は、父親の死亡により、祖父の代から経営してきた土木建設会社を引き継ぐことになり、大学の工学部を中退し、同じ仕事をしていた訴外Eの指導や援助等を受けながら、従業員(労務者を含む。)一五、六名を雇用する会社を経営してきた。
(二) 原告は、平成七年一一月ころ、亡父の事業を継続する上で恩義を感じていた訴外Eから、商品先物取引をやってみたらどうかと勧められ、その後も頻繁に勧められるようになり、そのころから、何度となく原告の経営する会社の事務所を訪れるようになった被告会社の従業員である被告Y1らから、トウモロコシの商品先物取引の勧誘を受けるようになった。
(三) 被告Y1は、平成八年四月一一日午後六時ころ、原告の事務所を訪れ、原告及び訴外Bとの間で、概ね、トウモロコシの値上がりが続いていて、買いの好機は新物のトウモロコシが出てくるまでのここ二、三ヶ月程度である旨、訴外Bからの、もしも値下がりした場合はどうするのか、との質問には、そのような場合は追証拠金を出さなければならないが、今のトウモロコシに限ってそのような心配はいらない旨のやりとりがあった。
原告は、結局、トウモロコシの商品先物取引を始めることとし、翌一二日正午ころ、委託証拠金として現金三〇〇万円を被告会社に預け、商品取引委託に関する約諾書に署名することとした。
(四) 原告は、翌一二日正午ころ、被告Y1に右現金三〇〇万円を交付するとともに、約諾書(乙一)、アンケートなど(乙七、八)に署名し、委託のガイド、受託契約準則の交付を受け、同日、被告会社によって最初の買建玉が行われた。
(五) その後、トウモロコシの値は上がり続け、同月一七日、原告はさらに一〇〇万円の委託証拠金を預けて買建玉を追加し、以降、原告の計算で行われた取引の経過は、別紙売買一覧表のとおりであるが、右取引に関する委託売付・買付報告書及び計算書については原告も目を通しており、少なくとも同年四月中は、トウモロコシの値段の推移を気にしていた原告から、被告Y1に相当回数問い合わせの電話がされていた。
(六) ところが、同年四月下旬ころからトウモロコシの値が下がり始め、追証拠金が必要な事態になり、原告は、同月三〇日、別紙株券目録記載の株券を、委託証拠金代用有価証券として被告会社に預けた。
(七) 同年五月一日、原告は、被告Y1から両建を勧められ、その当時までの買建玉と同数の四〇枚の売建玉をすることとし、両建をはずす頃合いは被告Y1に一任し、以後は同被告から取引の結果報告が来るだけとなった。
(八) その後、次々と追証拠金が必要な事態になり、原告は、被告Y1に対し、同月一七日に現金四〇〇万円、同月二八日に現金四〇〇万円、同月三一日に現金二〇〇万円を交付した(当事者間に争いがない。)。
(九) 同年六月ころ、本証拠金三〇〇万円及び追証拠金八〇〇万円が必要となったが、原告の金策がつかずそのまま時が経過したため、被告Y1は、うち三〇〇万円について自ら立て替えた上、原告に対し、三〇〇万円については顧客の一人から借りて立て替え、八〇〇万円については被告Y1が自らの親から借りて立て替えた旨伝え、その支払方を催促した。
(一〇) 同年七月一日、原告から要望されて、被告Y1が訴外Bに取引経過を説明して取引継続の説得にあたったが、同月四日には、原告、訴外Bとも、右一一〇〇万円を用立てることはできず、もはや取引を継続することは不可能との判断に達し、消費者センターに相談に行った。
(一一) 同月五日、原告が取引を終了したいかのような内容の電話をしたため、被告Y1は、原告宅を訪れ、一人でいた訴外Bに対し、取引を継続する方向での説得をしたが、自ら三〇〇万円を立て替えていることもあって、相当語気強くこれを行い、訴外Bの「人から金を借りて返せなくなったら申し訳ないから、死ななきゃならなくなる。」との言葉に、「死ぬなら金を出してから死んで下さい、私も奥さんの自殺するのに付き合って見届けてあげますから。」などといった発言もみられた。
2 以上の認定にかかる原告の職業、社会的地位や勧誘から契約に至る経過、訴外Bはトウモロコシの値段の変動について被告Y1に疑義を問い質していること、原告も当初トウモロコシの値動きを相当気に掛けていたなどの事実に鑑みれば、原告は、商品先物取引の仕組み、危険性などを一応了解し、トウモロコシの値段についても、被告Y1の相場観を前提としてあくまで自らの判断に基づいて取引関係に入ったものと解するのが相当であるから、原告が、商品先物取引の仕組み、危険性などを全く知らず、被告Y1から、安全で利益が確実なものと虚偽の事実を申し向けられて、その旨誤信して取引関係に入ったとの原告の主張を採用することはできない。そうすると、平成八年四月一二日の買建玉三〇枚の取引及び同日の三〇〇万円の委託証拠金の預託について、これに瑕疵を認めることはできない(なお、原告は、同月一四日の仕切要求を被告Y1が拒否した旨主張するが、これに反する被告Y1の供述部分や、原告は、同月一七日に追加の建玉をしていること前記認定のとおりであり、これらを考慮すれば、右主張は採用することができない。)。
また、同月一七日の買建玉一〇枚の取引及び同日の一〇〇万円の委託証拠金の預託についても、原告は、忙しくて被告Y1に根負けしてこれをしたと主張するが、前記認定事実に照らすと不自然であって信用できず、その他、特段、被告Y1の言動に違法な事実があったことを認めるに足りる証拠もないから、右取引及び預託についても瑕疵を認めることはできない(なお、被告会社の受託業務管理規則によれば、新規委託者につき建玉を二〇枚に制限をする旨の定めがあることが認められ(当事者間に争いがない。)、右各取引はこの定めに反することになるが、これをもって直ちに民法上の不法行為となる違法な取引と認めることはできない。)。
しかしながら、同月下旬にトウモロコシが値下がりし始めたころより、原告は、委託証拠金代用有価証券を初め、委託証拠金を次々と被告会社に預託するようになり、特に、同年五月以降から始まった両建については、特段の指示もなくこれを全く被告Y1に一任し、同年六月ころに至っては、本証拠金不足分三〇〇万円について、被告Y1が原告に代わって立て替え、追証拠金八〇〇万円については全く支払の目途もなく、結局、原告において金銭的な見通しも全くないまま取引が行われていたこと、前記認定の事実から明らかであり、これらの結果は、原告の積極的な判断によるものというよりは、被告Y1の言うがままに取引を継続していったものと認めるに十分であり、右は、同年七月五日に被告Y1と原告の電話内容を原告代理人事務所にて録取した録音テープ反訳文(甲八)の中に、被告Y1の、「お金さえ用意すれば、損はすぐに取り戻せる、両建をはずした結果を見て下さい。」との趣旨の発言からも裏付けることができる。
三1(一) 以上の点を前提に判断すると、少なくとも平成八年四月下旬以降の被告Y1の行為は、自らに取引を一任すれば必ず損を取り戻せると原告に確約し、同被告の右言明にすがった原告から委託証拠金として金員を引き出したものに外ならないから、公序良俗に反する違法なものであると解すべきであり、被告Y1の雇用者たる被告会社は、被告Y1と連帯してその責任を負う。
(二) そうすると、同年四月下旬以降に預けた委託証拠金一二〇〇万円については、被告Y1の違法行為に基づいて原告が被告会社に預けたものであるから、原告の損害となり、また、別紙株券目録記載の株券は、預託の原因が無効であって存在しないから原告に返還すべきものであるが、それ以前に預けた委託証拠金四〇〇万円については、瑕疵を認めることはできないから、これに関する損害賠償の請求は失当である。
2 また、被告Y1の訴外Bに対する言動をみるに、語気強く、かつ、外務員としては常軌を逸した内容であり、極めて不相当と認められるものであることは、前記認定のとおりであるが、これをもって原告自身に対する違法行為とまで認めることはできないから、この点に関する損害賠償の請求も失当である。
3 さらに、前記した判断によれば、同年四月一二日及び同月一七日の建玉に関しては、原告の判断に基づくものであるところ、その差引損は、五四二万六一七六円となるから(右建玉の仕切自体までが違法ないし公序良俗に反して無効で、かつ、損害の生じたものと認めるに足りる証拠はない。)、原告の債務不存在確認請求は、右債務を超えて存在しないことの確認を求める限度で理由がある。
4 本件弁護士費用として、一二〇万円を相当と認める。
四 結論
よって、原告の請求は、被告らに対し、各自一三二〇万円及びこれに対する不法行為の日の後である平成八年七月八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金並びに被告会社に対して別紙株券目録記載の株券の引渡し及び原告と被告会社の間の商品先物取引委託仲介契約に基づく債務が五四二万六一七六円を超えて存在しないことの確認を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六四条、六五条を、仮執行の宣言につき同法二五九条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 栗栖勲 裁判官 神山千之 裁判官 中村恭)
<以下省略>